焼け残った杉おけ、再建の希望 茨城・桜川の「鈴木醸造」 菌すむ10本「近い味に」
7月に火災に見舞われた茨城県桜川市真壁町古城の老舗しょうゆ醸造業「鈴木醸造」は、焼け残った仕込み用の杉おけを活用し、再建に取り組んでいる。国登録有形文化財の主屋(しゅおく)など4棟が全焼したが、1925(大正14)年以来使い続けてきた杉おけが幸運にも火の手を逃れ、再建の希望となっている。
火災後、停電で真っ暗になった工場の別棟。内部をライトで照らすと、高さ約2メートル、直径約2.3メートルの杉おけが浮かび上がった。鈴木正徳社長(58)は「杉おけが残ったのはありがたい」と話す。
杉おけは鉄やプラスチック製のタンクとは違い、木の表面に小さな穴があり、菌がすみ着いているのが特徴。しょうゆは、こうじ菌、乳酸菌、酵母菌などの働きで、原材料の大豆や小麦を発酵熟成させる。タンクによる醸造は培養した菌を添加して発酵させるのに対し、杉おけは何十年と使い込んでいくうちに蔵にすみ着いた菌が発酵を促すようになり、その蔵独自の味わいが出てくるという。
かつて同社の工場には約50本の杉おけがあり、1本につき約5000リットルを仕込んでいた。杉おけは現在ほとんど作られておらず、大阪府堺市の製造所が全国唯一となっている。鈴木社長は、同社に見積もりを依頼し、修理して使用可能なものがないか調べている。
敷地の東側にある原料倉庫や工場別棟は難を逃れ、別棟内にあった杉おけ10本は無事だった。別棟はみその醸造やしょうゆの保管に使っていた。10本の杉おけは、生産量が多かった時期に一時使用していたものだという。鈴木社長は「これを使えば、今まで造ってきた商品と近い味になるはず」と前を向く。
今後については「残った杉おけを生かしながら、人手がかからないコンパクトな工場を目指したい」と話す。ほかの醸造所の見学なども視野に入れており、関係者と相談しながら事業計画を立てていくという。
周辺では支援の機運も高まっている。桜川市鍬田の直売所「加波山市場」では15日、同市出身の声優で歌手の安達勇人さんらがチャリティーイベントを開いた。対象商品の売り上げの一部を寄付するという。
鈴木社長は歴史的建造物を生かした街並み保存に精力的に取り組んできたことから、真壁地区の三つの市民団体も協力。「鈴木醸造を応援する会」を設立し、義援金の募集を始めた。代表の吾妻周一さん(69)は「鈴木醸造は真壁を代表する産業の一つ。社長はまちづくりも一生懸命やってきた。全国の皆さんと一緒に応援したい」と話した。
鈴木社長は「頭が下がる。ありがたい」と感謝。「多くの人から支援をいただいている。再建に向けて進んでいきたい」と力を込めた。
(令和5年8月18日茨城新聞より引用)